急性胃炎

食べ物を口にしないで胃を休めることが大事

日頃あまり食べ慣れないような、珍味やご馳走を次から次へと出されると、よく噛まないで食べたり、つい食べ過ぎたりするのが人情である。このような暴飲暴食で胃が痛むのが急性胃炎である。

急性胃炎では、原因があって短時間の後に、心窩部(みぞおち)痛、げっぶ、吐き気、嘔吐、めまいなどの症状が出てくる。食欲はなくなり下痢を起こすこともある。
舌の表面をみると舌苔白く厚くなっているし、心窩部を圧迫すると痛む。人によっては三38度前後の熱が出ることもあるが、発熱は長く続かない。

急性の炎症を起こした胃の粘膜をファイバースコープで覗いてみると、赤くなって腫れているように見える。時には、出血を伴ったタグレを起こしていることもある。このような症状は、熱すぎたり、冷たすぎるものを食べたり飲んだりしてなることもあるし、かぜを引いた時や鎮痛剤、抗生物質、感冒薬などの強い薬を服用した場合にも起こる。

胃腸の丈夫な人でも、睡眠不足、過労、精神的ストレスなどの続いた場合には、日頃食べ慣れた食物にも急性胃炎を起こすことがある。

肉体的、精神的ストレスが続いて無理をしている人は、急性胃炎にかかりやすい状態に置かれていると考えられる。

いずれにしても急性胃炎は胃を酷使したり刺激したりすることが誘因となるので、胃に休養をとらせることが治療の第一歩であり、1日ぐらいは絶食して安静を保つことが肝要である。

薬としては胃酸を中和する作用のある制酸剤、胃粘膜を保護修復する作用のある保護修復剤、痛み、悪心、嘔吐を止める作用のある鎮痙・鎮痛剤、消化をよくする作用のある消化剤をおすすめする。

胃腸薬として薬局・薬店で売られている薬には、いろいろな作用をもったものを組み合わせて総合胃腸薬として製品化されたものが多い。薬効はほとんど同じと考えられる胃腸薬でも、製薬会社によって製品名は違っている。目的・症状に応じて次のような薬の選択をおすすめする。

食べすぎの時の消化酵素製剤

消化作用を助けるために消化酵素製剤の服用がすすめられる。食物中の栄養素であるでんぶん、たんばく質、脂肪などは、そのままの形では吸収されない。

胃腸からの吸収を可能にするためにはアミノ酸、ブドウ糖、脂肪酸などに分解して吸収可能な形にしなくてはならない。食べすぎた場合には自分自身の消化能力には限界があるので、薬としての消化酵素で消化能力作用を増強してやるという考え方である。

強い消化作用をもった消化酵素製剤に、新タカヂア錠がある。
でんぶん糖化酵素であるジアスターゼをさらに強力にしたタカジアスターゼN1を主成分としており、でんぶん消化酵素アミラーゼ、たんばく質消化酵素プロテアーゼ、脂肪消化酵素リパーゼ、繊維素消化酵素セルラーゼの作用をあわせもっている。
消化作用は胃液や重曹による影響を受けにくく、至適pHの範囲は広い(pH 3.5~5.5の範囲)

消化酵素製剤にはそのほかに、タケダ胃腸薬 ザッツ21、、強力わかもと、などがある。いずれも食後ただちに服用したほうが効果的。

一般的にいって、酵素は熱やお茶の成分であるタンニンに弱く、また、その消化作用を充分に発揮するためには至適pHの範囲が決まっている。
熱いいお茶などとは一緒に服用しないほうがよい。食べすぎは胃腸障害だけではなく、他の諸臓器に対しても負担をかけ悪影響を与える。しかも病気ではないだけに、見過ごされやすい症状である。消化酵素剤を持ち歩くのもよいが、健康のために腹八分目を心がけたい。

飲みすぎ、二日酔いなどのお酒を飲む人が必ず覚えておきたいこと

アルコールは胃の粘膜を刺激して胃の痛みを起こし、ひどい時には嘔吐をまねく。
急性胃炎のうちでもアルコール性飲料の飲みすぎによるアルコール胃炎はかなりの比重を占めている。すっかり吐いてしまい吐くものがなくなると苦い胆汁まで吐いたり、時には血を吐いたりするので周囲の者まで胃が痛くなる。

また洒を飲みすぎると、翌日になって、頭痛、吐き気などの二日酔いになる。これはアルコールが体内に多量に吸収された結果、肝臓の解毒機能が追いつかなくなってアセトアルデヒドという有害物質が蓄積するために起こる症状である。

飲みすぎや二日酔いの時には、胃の中は、はじめ低酸状態であっても後には胃酸過多になることが多い。このような場合には、制酸剤の入った胃腸薬を服用するとスッキリする。

酒は適量であるならば、心身の疲労をとり除き、食欲を増し、催眠剤ともなり、明日への活力の源泉となる。問題はその飲み方である。
本当に酒好きだといわれる人は、副食物をあまり食べないで、からいものをほんのおつまみ程度にとるのみなので、しばしば胃炎になっている。盲のアルコール量は30g (ビールなら大瓶1本半、日本酒ならお銚子1本半、ウイスキーならダブル1杯半くらい) 以下に制限して、1週間に2日は休肝日のドライデイを決めておくことである。
2週間の禁酒が脂肪値を半分に | 血管はもっと若返るによれば2週間の禁酒がかなり効果的なようなので禁酒期間も重要である。

その他の胃腸薬についてはこちら。

胃潰瘍、十二指腸潰瘍

1に安静、2に食餌療法、最終段階で薬を使用する

胃潰瘍、十二指腸潰瘍は、胃炎とともに日本人に多い病気の1つである。診断には、X線検査、内視鏡検査による医師の精密検査が必要であるが、見わける方法はある。

胃潰瘍、十二指腸潰瘍はまとめて消化性潰瘍と呼ばれることもある。これは消化作用をもつ胃液が胃や十二指腸の内壁の粘膜組織に酸としての化学作用を発揮してただれやくずれを起こし、ついですりばち状の欠損すなわち潰瘍を作るため、自己の出した胃液で自分自身を消化することになるため、こう呼ばれる。

潰瘍が進行すると粘膜の層ばかりでなくさらにその内側の筋肉層まで損傷して、ついにはい胃穿孔、十二指腸穿孔といって胃に穴があき、急性腹膜炎を起こしショック状態で病院の手術室に担ぎこまれてくる人もある。

潰瘍にかかりやすい人は、精神労働者といわれるホワイトカラー族、心理的ストレスの強い人、暴飲暴食する人、胃酸過多症の人、運動不足の人、たえず心配事をもちストレスに悩む人などである。

潰瘍の主な症状は、周期的に出現する空腹時の胃痛(上腹部痛)、食後30分経った頃の胃痛、過酸症状(胸やけ、酸っぱいげっぶ、生唾)、吐血、下血などである。十二指腸潰瘍の特徴は、空腹になると痛みが起こり、何か食べると痛みが消える。胃潰瘍の場合でも十二指腸に続いている幽門前庭部にできた潰瘍は、空腹時痛を認めることがある。

ただ単純に空腹時の痛みだけで、胃潰瘍か十二指腸潰瘍かを判定することはできないし、また胃と十二指腸に同時に潰瘍ができることもある。
胃潰瘍にしても十二指腸潰瘍にしても、例外はあるけれども、主症状の胃痛(上腹部痛)が毎日あるので単なる胃炎の場合の胃痛とは違っている。1週間以上胃痛が続いたら警戒すべきである。潰瘍の疑いがもたれたら、まず医療機関で精密検査を受け、その診断の結果に従って治療する。

胃・十二指腸潰瘍 | 薬を使わない食事療法(病気・症状別)

潰瘍にかかった場合、まず第一に安静、第二に食餌療法、第三に薬である。安静は、心身両面の安静が大切である。肉体的安静とともに、日常生活の精神的緊張(精神的ストレス)から解放されるようにつとめねばならない。

潰瘍にも急性期と慢性期があって、急性期の特に吐血、下血のある場合には医師の指示に従って入院して治療することが必要となる。

慢性期には通常の仕事はよいとしても、残業や激務を避け、自動車の運転のような精神的過労になることは、慎む必要がある。潰瘍の食餌療法も原則的には慢性胃炎と似ていて、胃粘膜を刺激しない、栄養価の高いやわらかいものを、ゆっくり噛んで、少量ずつ食べることである。

重症の急性期の場合には絶食に引き続き、重湯、お粥、軽食とし、野菜は繊維の少ないものを、裏ごしにしたり、やわらかく煮る。
卵は生卵よりも半熟卵のほうが消化はよい。果物も酸味の弱いもの、消化のよいものをとる。食品を選択する場合、やわらかいか、かたいかという口当たりは関係ない。よく噛んで消化よく吸収されることが大切なのである。

問題は胃の中に入ってからのことである。
たとえば塩せんべいとたくあんを比較すると塩せんべいのほうがかたいように思われるが、胃の中に入った場合には、せんべいは胃液で溶かされてお粥のようになるが、たくあんは消化されにくい。食餌療法を行う場合は、病院・診療所で検査を受け、医師の指示に従って行う。禁煙を実行することも大切である。

潰瘍はなぜできるのか?

潰瘍がどのようにしてできてくるかについては、まだ明確な解答は出されていないが、次のように考えると一般療法、食餌療法を実行するためにも、薬を選択する際にも便利である。

胃粘膜はつねに粘膜を攻撃する因子と粘膜を防禦する因子の戦場となっていて、両者のアンバランス、つまり攻撃因子が相対的に優勢になると潰瘍が発生すると考えるのである。
攻撃因子の代表的なものは、胃液の中に含まれている酸の水素イオンとペプシン(たんばく質分解酵素)。防御因子となるものは、胃の表面を0.5~2.5mmの厚さで覆っている胃粘液と胃の血流並びに胃粘膜細胞の代謝など。なかでもプロスタグランジン(PGE2、I2) 代謝は防御因子の中心的役割を担っている(細胞保護作用)。

このように潰瘍発生のしくみを考えると、攻撃因子の胃酸を中和する制酸剤が潰瘍の薬になることが理解されるし、タバコは胃液の分泌を多くし、かつまた防御因子として働いている血液の流れを悪くするので禁煙が潰瘍治療に効果があることがわかる。

精神的ストレスは神経性経路(迷走神経)を通して胃液の分泌を多くし、また副腎皮質ホルモンの分泌に影響して攻撃因子優勢に味方する。一方防禦因子の血液の流れは精神的ストレスが交感神経の興奮を起こすために悪くなる。心身の安静が潰瘍の治療に必要であることが理解されたと思う。

潰瘍に効く薬

潰瘍のしくみを考えてみると、潰瘍治療薬としてどのようなものがあるかわかってくる。まず胃液の酸を中和する制酸剤、たんばく質消化酵素ペプシンに対する抗ペプシン剤、迷走神経に抑制的に働き胃液の分泌を抑える抗コリン剤、胃粘膜の保護あるいは粘膜の修復を促進する粘膜保護修復剤などを挙げることができる。

コリンとは、神経末端から分泌され、特に消化管の働きを促進させる物質のことである。胃酸の分泌はアレルギーの時などに分泌されるヒスタミンによっても分泌される。最近では胃壁の細胞に存在する受容体( ヒスタミン恥受容体)に作用して、その効果を遮断する受容体括抗剤も潰瘍治療剤として登場し潰療治療は容易になってきた。胃液の酸を中和するクスリは胃潰瘍の治療に用いられてきたが、さらに自律神経の活動を抑制して胃液の分泌を少なくし、粘膜の保護修復を促進するための薬などを配合した潰場治療薬が出ている。

胃潰瘍にかかったモルモットにキャベツを与えたところ、潰瘍が治った。このことから、キャベツの中から発見された抗潰瘍剤メチルメチオニンスルホニウムクロライド(MMSC)を主剤とする薬が製品化されている。このMMSC の入った潰瘍薬には

MMSC の作用は、潰瘍組織の再生修復と細小動脈の血流をよくすることであるが、同じような作用を持ったものにL- グルタミンがある。この薬は胃液の水素イオンの胃粘膜への侵入を抑制する抗潰瘍剤である。これを主剤として作られた製剤には、パンシロンがある。

胃液の中に含まれているたんばく質消化酵素ペプシン(攻撃因子)に対して抗ペプシン作用を持つものとしては、ヒドロタルシト がある。これを主剤とした薬にはシオノギS 胃腸薬が代表的。

胃潰瘍の薬として、医師にもよく使われているものに、アズレンがあげられる。消炎、抗ペプシン、抗ヒスタミンなどの作用を併せもっていて、さらに創傷治癒を促進する。この製剤にはパンシロンAZ胃腸薬ワクナガ胃腸薬Uなどが市販されている。

また、塩酸セトラキサート製剤も抗潰瘍薬として使われている。抗炎症、微小循環改善、プロスタグランジン合成促進、抗ペプシン、抗力リクレイン作用など、多方面にわたる抗潰瘍作用をもっている。製剤としては、センロック などがある。

軽い胃痛・激しい胃痛、それぞれの原因

軽い胃痛は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍以外の時にも起こる。胃痛(上腹部痛)は腹部病変の存在を意味する警鐘と考えなくてはならない。
痛みが軽い、それほど強くない場合には新セルベールを服用してみるとよい。本剤には副交感神経遮断作用(抗コリン作用) を持つロートエキス散が配合されていて胃の運動を抑制し胃液の分泌を減少させる。
鋼クロロフィリンナトリウムも含まれていて、胃液中のペプシンを吸着し、胃潰瘍の場合には粘膜保護作用を期待できるとともに、胃疾患による口臭をとる作用もある。

激しい胃痛は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の症状でもあるが、胆石症、急性胆のう炎、急性膵炎、腸閉塞、尿管結石、卵巣のう腫、子宮外妊娠などで起こることもある。

潰瘍の場合は、潰瘍の薬を用いれば効果があるが、原因不明の激しい痛みに対しては、その痛みを叫時的に止める救急鎮痛薬が必要となる。
キリキリとした痛み、いわゆる胃けいれんの状態の時には、まず鎮痙・鎮痛剤の配合された薬を服用して痛みとけいれんを止めて病院にかけつけることである。
このような、鎮痙・鎮痛剤の配合されている胃腸薬には、鎮痛鎮痙胃腸薬がある。薬で痛みが止まっても、安静を保ち、医師の診察を受けなければならない。そうでないと、激しい痛みの起こった原因がわからぬうちに、手術するにも手おくれという事態が起こりうる可能性がある。

胃下垂症・胃アトニー

胃弱の人にすすめたい、胃の働きをよくする薬と生活のポイント

俗に「胃弱」といわれ、太れないタイプの人がいる。ダイエットに苦しむ人から見れば全くうらやましい体質のように見えるが、医学的見地に立てば、あまり健康的とはいえない。
暴飲暴食をしなくてもなんとなく胃がもたれる。手で胃のあたりを叩くとピチャピチャという音がする 。こんな自覚症状のある人は胃下垂であることが多い。

日本人の約3分の1は、胃下垂があるといわれている。ただ胃が下がっていても、胃の機能が正常であるならば、不快な症状があらわれることはなく病気とはいえない。
胃下垂があって胃機能が低下し、いろいろな自覚症状を呈する胃下垂症の人は、である。胃下垂の人の半数以下の胃の型は、大きく分けると「釣り針型」と「牛のツノ型」の2つとなる。一般的に「牛のツノ型」はガッチリした体格の人に多く、「釣り針型」はやせた人に多い。

胃下垂の診断は、胃X線検査によりすぐわかる。胃下垂の人には胃アトニー(胃無力症) を合併して症状の出てくることが多いようである。

胃アトニーの症状としては、胃壁が弛緩して、たえず胃の張った感じが続き、少し食べてもすぐに満腹感になる場合が多い。
胃下垂症、胃アトニーがあって、胃弱を訴える人には、胃液の分泌と胃の運動をよくする作用を持った薬がよいわけで、さらに消化酵素が加えられているものが望ましい。
このような作用をもった胃腸薬としては、ガロニン錠、、ワクナガ胃腸薬Gなどがある。

こうした薬物療法とともに、「胃弱」の人は、精神療法、食餌療法が必要である。胃下垂があっても気にしてはいけない。胃下垂症の基本には神経症的な性格傾向、自律神経失調、無力性体質などが複雑にからんでいるのであって、これらが胃下垂症の発病症状、経過に影響を及ぼす。

小さなことにくよくよしないで規則正しい正常生活を心掛け、毎日全身の運動を実行し、疲れてぐっすり睡眠をとることである。食事は良質のたんばく質と糖質を消化のよい状態に調理して、1回量を少なく食べる。ミネラル、ビタミン類は野菜、果実より補給する。
食事の回数は1日に4回あるいは5回として規則正しくすることである。食後は30分間くらい横になると胃の消化と運動によい影響を与える。